セミナー初日・2日目(事前研修) 
報告者:丸尾聡
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2022/1/21/19:00~21:30
新型コロナ、オミクロン株による、いわゆる第六波の中、今回も戯曲研修セミナーin東京はオンラインで行われた。集まったのは、一般公募により集まった「参加者」、「見学者」、そして日本の戯曲研修部(東京)の担当委員の面々。「参加者」は〈顔見せ・声出し〉でディスカッションに加わり、「見学者」は〈顔出し・声出しナシ〉で文字通りの見学の方々で、チャットで感想や質問を行うことでセミナーに参加する。オンラインならではのスタイルだ。

初日は、総合司会の丸尾聡の挨拶からZOOM使用のルールに関するお願い、全日程の確認、そしてこのセミナーの主旨は、参加者が持ち寄ったこの戯曲に関する「問い」を自由にディスカッションすることで、戯曲を読み解き、今後この戯曲のみならず上演の際の戯曲読解に寄与する目的であることが話された。
続いて戯曲研修部部長川口典成から「戯曲研修セミナーの歴史と目的」をパワーポイントを使用して紹介。奇しくも『オッペケペ』の初演演出者、観世榮夫さんの「近代戯曲を紹介し、残していく」という思いから始まったことなどが語られた。
続いて、参加者、担当委員が福田善之、その作品との関わりなどを含め自己紹介。いつもに増して、様々な年齢層、様々な参加を希望した理由を持った方々が集まった印象だ。

研修にあたり、参加メンバーのなかで最低限の共通認識を持とうと、以下の3点が担当委員よりレクチャーされた。

1、「安保」60年代、政治の季節 篠本賢一  
2、「オッペケペ」の時代と戦争劇  川口典成 
3、「私的 福田善之について」  丸尾聡  

どれも、本来であればかなりの時間をかけて語るべきものであるが、限られた時間の中で、また今後本格的な研修にあたり、論点や「問い」を考える上での参考となれば、という意図でもあり、それぞれ簡潔に。

1は、この戯曲が初演された1963年の少し前1960年から1970年くらいまでの年ごとの出来事を時系列的に確認した。やはり、今の私たちには想像がつきにくい「政治の季節」であったことが思われた。
2では、この戯曲の大きな要素である明治の流行歌「オッペケペ節」がその背景とともに当時の音声を交えて紹介された。また、この芝居の登場人物のモデルとなっている川上音二郎が上演した「戦争劇」についても、本研修2日目に行われる日置貴之さんのレクチャーに先駆けて話を。
3は、「私的」とついたように、当時の総合演劇雑誌「新劇」の変遷などを現わしつつ、福田善之、オッペケペの芝居がなぜ当時評価され、あるいは批判されたか、についてある視点を提示した。

戯曲を上演する際、あるいは文学作品を語る際、そこに書かれたもの以外から考えることは如何なものか、という向きもある。しかし、そこに書かれていることをより深く理解するには、よしんば新しい視点を加味して現代における上演に繋げるとすれば、戯曲の背景、ともいうべき上記3点を知ることは必須であるだろう。

時間があれば、一幕の読み合わせ、前田昌明氏のインタビュー映像の一部も紹介の予定だったが、この後は本日の事前研修の感想や疑問点を皆で話し、終了した。

1/22/13:00〜15:00
2日目の眼目は、『オッペケペ』の劇団新人会による1963年の初演に出演した前田昌明さんのインタビューであった。

前田さんは89歳。今尚お元気で新人会での活動を続けている。
上演に至る経緯、当時の福田善之という存在、初演時、その後の旅公演の様子、また当時の新劇・演劇界について、社会情勢と相まってどんな思いでこの戯曲のセリフを語っていたか、そして同じく出演されていた渡辺美佐子さんの話など、実に興味深い話が共有できたのではないか。

とにかく貴重なインタビュー、映像であった。時間的制約により、この場では3分の1ほどをカットした編集版となった。前田さんが演出を受けた千田是也、田中千禾夫と福田善之の比較、など興味深い話を紹介できなかったところがある。できれば、完全版の一般公開を機会を見て果たしたいと強く感じた。

その後は、初演時の劇評、舞台写真、ポスターなどを紹介。劇評の数の多さと、また批判的な切り口が「政治的・思想的」であることは、ある意味新鮮な驚きでもあったかと思う。

最後に「問い」についての話があった。この戯曲に関する「問い」をしばらく時間が空いてから始まる本格的な研修の前に各自が提出する。「問い」は、戯曲の中から発し、かつ具体的でなければならない旨、確認したが、さて、どうなるか。

なんにせよ、2月1日からのセミナーが楽しみとなった事前研修であったように思う。